個人事業主の事務所選びは、長期的なコストや働き方に関わる重要な選択です。「自宅」「レンタルオフィス」「貸事務所」など様々な選択肢がありますが、事業の内容や将来の見通しから、自分に合った事務所の形態を見極めることが大切になります。
自宅以外に事務所を構える必要がない場合は、ひとまず自宅兼事務所として開業しましょう。その後、必要に応じて「バーチャルオフィス」や「レンタルオフィス」などを活用すれば、柔軟な働き方を実現できます。
目次
事務所選びで大切な4つのポイント
事務所選びの際には、以下4つのポイントについて慎重に検討しましょう。
比較項目 | チェックするポイント |
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立地 | 自分や顧客にとって、便の良い立地か? |
コスト | 初期費用や賃料などのコストは現実的か? |
設備 | 事業に必要な設備は整っているか?または今後整えられる環境か? |
契約内容 | 契約期間や利用時間など、事業に合わない契約上の縛りはないか? |
事務所選びに関して、まずなによりも大切なのは「立地」と「コスト」です。頻繁に顧客と打ち合わせなどを行う業種の場合、交通の便の良さは外せない条件です。とはいえ、賃料などのコストを考えると、両方のバランスがとれた立地を探さなくてはなりません。
通信環境や広さなどの「設備」も、事務所によって大きく変わります。また、賃貸などを利用する際には「契約内容」にも気をつけましょう。とくに契約期間や解約の際の手続きなどは、事業の先を見据えて、あらかじめ確認しておく必要があります。
自宅兼事務所のメリット・デメリット
とくに事務所を構える必要がなければ、自宅の一部をそのまま事務所として使っても全く問題ありません。事務所開設の初期費用や賃料などのコストがかからないため、他で事務所を構える利点が特にない場合には自宅兼事務所の形をおすすめします。
ただしマンションなどの賃貸住宅の場合、事務所利用がNGの物件もあります。顧客や従業員の出入りが頻繁にある場合は、トラブルに繋がる可能性もあるので注意しましょう。
メリット | デメリット |
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上記に加え、自宅の一部を事務所として使用する場合、家賃や光熱費などの一部を経費として計上できます。詳しくは記事の後半で説明します。
バーチャルオフィスを活用する
「バーチャルオフィス」とは、いわば住所のレンタルサービスです。自宅を事務所にしている場合でもバーチャルオフィスを使えば、自宅以外に事業の所在地を持てます。ただしほとんどの場合、バーチャルオフィスを作業場として実際に使用することはできません。
実際にオフィスとして活用できなくても、バーチャルオフィスを契約することで、自宅の住所を対外的に明かさず事業ができます。また、いわゆる一等地の住所を事業の所在地とすることで、顧客の信用につながる可能性もあります。
レンタルオフィスのメリット・デメリット
一般的に「レンタルオフィス」とは、ある程度の通信設備などが備えられた「個室型」の賃貸オフィスのことを指します。会議室やラウンジなどの共用設備を使用できる場合も多いため、良い立地を選べば、顧客との打ち合わせなどにも困りません。
レンタルオフィスは、備え付けの設備に加え、受付業務や電話応対などのサービスが充実しています。部屋のサイズを柔軟に選べる分、一般的な「貸事務所」よりも面積辺りの賃料が高くなりがちです。ただ、そうしたサービス内容に加え、初期費用の安さや柔軟な契約期間などにメリットがあります。
メリット | デメリット |
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「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」などとの違いは?
レンタルオフィスと似た形で「シェアオフィス」や「コワーキングスペース」と呼ばれるものもあります。また、「バーチャルオフィス」も同じような使い方をできる場合があります。とはいえ実際のところ、これらを厳密に区別する基準はありません。
上記の4つのオフィス形態を、一般的な傾向に基づいて区別すると、以下の表のようになります。なお、それぞれのサービス内容は、運営会社やオプション内容によっても大きく異なるため、事前に確認しておきましょう。
一般的な傾向 | |
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レンタルオフィス |
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シェアオフィス |
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コワーキングスペース |
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バーチャルオフィス |
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「フリーアドレス」とは、個々人が割り当てられた専用のデスクを持たず、その時々で自由に作業場所を選べる形式のこと。パソコンや書類などをデスクに置いておくことはできませんが、より多くの人とコミュニケーションの機会を持てるというメリットがあります。
「プライベートな空間が欲しい」という場合はレンタルオフィス。「共有スペースだけでいいから賃料を抑えたい」という場合はシェアオフィスやコワーキングスペースをおすすめします。バーチャルオフィスは、自宅兼事務所などにプラスして使うイメージです。
貸事務所のメリット・デメリット
一般的に「貸事務所」とは、ビルの一室やワンフロアなどの単位で貸し出されている賃貸物件のことを指します。初期費用は高めですが、レンタルオフィスのようなサービスが付属していない分、賃料などのランニングコストは抑えられるのが特徴です。
「個室型」の貸事務所もありますが、レンタルオフィスほど共用部分やサービスが充実していない場合が多いです。ただその反面、事業に関わるプライバシーを保ちやすいというメリットもあります。
メリット | デメリット |
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大きな設備が必要だったり、複数の従業員を雇ったりする場合を除いて、個人事業で初めから貸事務所を利用するのはあまり現実的ではありません。ただし、比較的コストの低い「個室型」であれば、レンタルオフィスなどの選択肢と比べて検討するのもアリです。
住宅用賃貸のメリット・デメリット
マンションなどの「住宅用賃貸」を新たに契約し、事務所として使用するというのも選択肢の一つです。それなりの広さがあっても、一般的な貸事務所と比べて初期費用や賃料を大きく抑えることができます。
ただし住宅用賃貸の場合、事務所利用NGの物件があります。また、事務所利用はできても、法人の所在地として登記するのはNGの物件もあります。「法人化」を見据えている場合は特に、契約内容をよく確認しておきましょう。
メリット | デメリット |
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さほど大きなスペースを必要としないのであれば、貸事務所よりも住宅用賃貸のほうがコストを抑えられます。顧客などを招く機会があまりなく、少数の従業員を抱えている場合などは、住宅用賃貸を借りるのも選択肢の一つです。
事務所コストは経費にできるか?
自宅とは別に事務所を開設した場合、そこでかかる家賃・光熱費・通信費などのコストは、基本的にすべて経費として計上することができます。しかし自宅兼事務所の場合は、事務所として使用している割合などにしたがって、それらの一部を経費化することになります。
自宅兼事務所の経費は「家事按分」で計算する
「家事按分」とは、事業とプライベート両方の用途が混ざった支出について、そのうち事業で使用している分だけを経費として計上することです。事業で使用している「面積」「時間」「量」などが全体に占める比率をもとに、自分で適切な割合を設定して行います。
例えば以下の図のように、家賃10万円の賃貸住宅に住み、床面積の30%のみを事業用に使用している場合、家事按分で経費に計上できるのは月々3万円ということになります。
家事按分で経費にできるもの
家事按分で経費化できるものは家賃だけではありません。もちろん、持ち家に住んでいる場合も経費化できるものがあります。家事按分で経費にできるのは、主に以下のようなものです。
- 水道光熱費
- 通信費
- 火災保険料
- 住宅ローンの金利分
多くの人に共通するのは水道光熱費や通信費です。これらは一般的に「使用時間」や「使用日数」から、家事按分の割合を設定します。割合に関して細かなルールはありませんが、事業の内容に応じた納得感のある数字を設定することが大切です。
まとめ – ケース別のおすすめ事務所
個人事業の事務所選びには様々な選択肢があります。それぞれのメリットとデメリットを理解し、自分の働き方に合った形を選びましょう。以下に、事務所の形態ごとのおすすめケースをまとめます。
ケース別のおすすめ事務所
自宅兼事務所 |
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レンタルオフィス |
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シェアオフィス |
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コワーキング スペース |
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バーチャルオフィス |
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貸事務所 |
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住宅用賃貸 |
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自宅兼事務所の場合でも「バーチャルオフィス」を利用すれば、自宅の住所以外を公開せずに事業を行えます。また、普段は自宅で作業しつつ、顧客などとの打ち合わせの時だけレンタルオフィスなどを利用するという方法もアリです。
事業のために開設した事務所に関わるコストは、基本的にすべて経費として計上します。自宅兼事務所の場合でも、事業のために使用した割合に基づいて「家事按分」することで、家賃や光熱費などの一部を経費化できます。