青色申告で55万円・65万円の特別控除を受けるには、複式簿記で記帳する必要があります。本記事では、複式簿記の記帳方法について、実際の仕訳例を交えつつ説明していきます。
はじめに – 青色申告の簿記
青色申告を行った場合、10万円・55万円・65万円いずれかの特別控除が受けられます(青色申告特別控除)。どの控除額を狙うかによって、必要な記帳方法が異なります。
青色申告の記帳方法(控除額別)
10万円控除 | 55万円控除 | 65万円控除 |
---|---|---|
単式簿記 (簡易な簿記) |
複式簿記 (正規の簿記) |
複式簿記 (正規の簿記) |
- 10万円の控除を狙うなら、白色申告と同じ「単式簿記(簡易な簿記)」でよい
- 55万円 or 65万円控除を狙うなら「複式簿記(正規の簿記)」が必須
本記事では、55万円 or 65万円控除を受けるための「複式簿記」について、その記帳例を紹介していきます。
主要簿と補助簿
複式簿記で作成する帳簿は「主要簿」と「補助簿」に大別されます。いずれも、確定申告で税務署に提出するわけではありません。ただし、申告が終わった後も、最長7年間は保管しておく義務があります。
主要簿には、取引の仕訳を日付順に記録する「仕訳帳」と、取引を勘定科目ごとにまとめる「総勘定元帳」があります。55万円・65万円控除を受けるには、どちらも作成が必須です。一方、補助簿にはいくつかの種類があり、事業に必要なものだけ作成します。
主要簿 (必ず作成) | 補助簿 (必要に応じて作成) |
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普段からクラウド会計ソフトを使っている人は、これらの帳簿をすべて把握していなくてもOKです。ソフトで日々帳簿づけを行っていれば、入力された取引のデータをもとに、ソフトが必要な帳簿を自動作成してくれます(詳細は後述)。
複式簿記の記帳方法
複式簿記では、発生した取引を2つの側面からとらえて記帳します。1つの取引を「原因」と「結果」の2つに分けたら、これらをそれぞれ「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」に分けて記録します。
取引を「借方」と「貸方」に分けて記録することを「仕訳(しわけ)」と呼びます。主要簿のひとつである「仕訳帳」への記帳は、下記のように行います。
複式簿記の記帳方法
- 「借方」は左、「貸方」は右で、これは定位置
- 「借方」と「貸方」の金額は、必ず一致する
- 現金や預金が増えたら「借方」に記録し、減ったら「貸方」に記録する
上記は、1,000円のボールペンを購入した場合の記帳例です。ボールペンを購入して現金が減ったので、「貸方(右)」に “現金が1,000円減った” という取引の「結果」を記録します。一方、「借方(左)」には “消耗品費が1,000円発生した” という取引の「原因」を記録します。
複式簿記のしくみは少々複雑ですが、財務状況を正確に把握することができます。ちなみに、指定のフォーマットなどは存在しないので、上記のように必要事項が記帳してあればどんな形式でも問題ありません。
記帳例① 現金での収入があった場合
たとえば、書道教室の先生が、生徒から受講料を現金で受け取ったとします。この場合、複式簿記では以下のように帳簿づけします。
収入の記帳例(現金の場合)
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年4月1日 | 現金 30,000 | 売上 30,000 | Aさん 受講料 |
この取引を原因と結果に分けると、次のようになります。
- 原因……「売上」が30,000円発生した
- 結果……「現金」が30,000円増えた
現金が増えた場合の仕訳なので、 “現金が30,000円増加した” という結果は「借方(左)」へ記入します。一方、 “雑収入が30,000円発生した” という原因は「貸方(右)」に記録しておきましょう。
記帳例② 現金での支出があった場合
別の日、先生は仕事用の筆を新しいものに買い替えました。この筆を現金で購入した場合、複式簿記では以下のように帳簿づけします。
支出の記帳例(現金の場合)
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月2日 | 消耗品費 10,000 | 現金 10,000 | 熊野筆 |
この取引も、原因と結果に分けます。
- 原因……「消耗品費」が10,000円発生した
- 結果……「現金」が10,000円減った
今度は現金が減った場合の仕訳なので、 “現金が10,000円減少した” という結果は「貸方(右)」へ記入しましょう。また、 “消耗品費が10,000円発生した” という原因は「借方(左)」に記録します。
クラウド会計ソフトを使えば帳簿づけがカンタンに
複式簿記が不安な場合は、個人事業主向けの会計ソフトを使うことをオススメします。特にクラウド会計ソフトなら、画面に従い必要事項を入力していくだけで、複式簿記での帳簿づけがカンタンにできます。
* 画像は「やよいの青色申告 オンライン」より
勘定科目は具体例とセットで一覧表示され、初心者でも入力しやすいつくりになっています。
また、会計ソフトを使って帳簿づけしていれば、主要簿・補助簿を自分で作る必要はありません。日々入力した取引の情報を、ソフトがそれぞれの帳簿へ自動的に反映してくれるからです。これらの帳簿は、各会計ソフト内の該当ページからいつでも確認できます。
【参考】「やよいの青色申告 オンライン」の帳簿メニュー
まとめ
青色申告で55万円・65万円の特別控除を受けるには、複式簿記での記帳が必須です。複式簿記では、発生した取引を「借方」と「貸方」に分けて記帳します(仕訳)。単式簿記と比べると難しい記帳方法ですが、会計ソフトを使えば難易度がグッと下がります。
クラウド会計ソフトで帳簿づけするメリット
- 初心者でもカンタンに複式簿記での帳簿づけができる
- 主要簿や補助簿をソフトが自動で作成してくれる
- 日々の入力データは確定申告書類にも自動反映される
- 連携した銀行口座やクレジットカードの取引明細を自動取得できる
個人事業主は、確定申告が終わった後も最長で7年間、帳簿を保存する必要があります。原則として紙の状態で保存することになっているので、パソコンで帳簿づけしている場合、主要な帳簿はプリントアウトしておきましょう。