「事業主貸」「事業主借」「元入金」は、個人事業に特有の勘定科目です。今回は青色申告者向けに、それぞれの勘定科目の概要と、複式簿記での記帳方法について紹介します。
どういう時に「事業主貸」や「事業主借」を使う?
事業主貸・事業主借は、ごく簡単に言うと「事業用のお金」と「プライベート用のお金」を区別するための勘定科目です。
事業主貸・事業主借の使用例
事業主貸 | 事業用のお金を、プライベートな目的のために使ったとき |
---|---|
事業主借 | プライベートのお金を、事業のために使ったとき |
初心者にとっては理解しづらい科目なので、ひとまず「こういう時に使う」ということを把握しておきましょう。本記事では、具体的な仕訳例をメインに説明していきます。
元入金はいつ使う?
個人事業を開業するとき、開業資金を「元入金」として記帳します。元入金の金額は、事業主貸や事業主借の金額に応じて毎年変わります。1年間の事業主貸・事業主借が「元入金」に集約されることから、本記事ではまとめて説明します。
事業主貸
「事業主貸」は主に、事業用のお金をプライベートな目的で使ったときに使用する勘定科目です。事業用の資金をプライベートな目的で使うと、事業用の資金が減少します。そのことを記帳するために「事業主貸」の科目を用います。
事業主貸を使う主な例
- 事業用のカードをプライベートな出費に使った場合
- 事業用の口座からプライベートの口座にお金を移した場合
- 事業関連の支出を家事按分した場合
- 商品などの事業用資産を自家消費した場合
- 事業用の固定資産を売却して損失が出た場合
仕訳例① 事業用のカードで個人的な昼食代を支払った場合
プライベートな出費については、基本的に記帳不要です。しかし、その支払いに事業用のカードを使った場合などは、「事業主貸」を使って下記のように記帳します。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年5月25日 | 事業主貸 1,500 | 普通預金 1,500 | 個人の昼食代 |
仕訳例② 事業用の口座からプライベートな口座にお金を移した場合
事業用の口座からプライベートの口座にお金を移すときは、下記のように記帳しましょう。プライベートな目的のために、事業用のお金が減っているので「事業主貸」を使います。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年6月1日 | 事業主貸 150,000 | 普通預金 150,000 | 生活費引き出し |
事業主借
「事業主借」は、プライベートなお金を事業のために使ったときに使用する勘定科目です。そのほか、事業の収入ではないお金が事業資金に加わった場合などにも「事業主借」を使って帳簿づけします。
事業主借を使う主な例
- プライベートのお金で事業の必要経費を支払った場合
- プライベートのお金を事業用口座に振り込んだ場合
- 事業用口座の預金に利息がついた場合
- 事業用の固定資産を売却して利益が出た場合
仕訳例① プライベートなお金で事業用のコピー用紙を購入した場合
必要経費をプライベートなお金から支払った場合、事業用の「現金」や「普通預金」は減少しません。したがって、貸方を「事業主借」として仕訳します。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年9月25日 | 消耗品費 2,000 | 事業主借 2,000 | コピー用紙 |
仕訳例② 事業用口座にプライベートなお金を振り込んだ場合
プライベートなお金を事業用口座に移した場合は、下記のように仕訳しましょう。事業に関係のないお金が加わっているので、「事業主借」の勘定科目を使います。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年1月20日 | 普通預金 200,000 | 事業主借 200,000 | 事業資金の補充 |
元入金
「元入金」を帳簿づけで使うのは、開業時と決算時(個人事業主の場合は12月31日)のみです。日々の帳簿づけでは使いません。元入金の意味合いは、以下のように「開業年」と「2年目以降」で分けて考えると分かりやすいです。
元入金の考え方
開業年 | 個人事業主が事業を始めるに当たって拠出した資金の額 |
---|---|
2年目以降 | 前年の元入金・所得・事業主貸・事業主借から算出した金額 |
開業年は、ひとまず開業にあたって用意した資金が「元入金」に当たると考えてOKです。その後は、期末になると所得や事業主貸・事業主借を集約して翌年の「元入金」を算出します。
元入金の計算式
期首の元入金 + 所得 + 事業主借 - 事業主貸 = 翌期首の元入金 |
期首」は原則1月1日(新規開業した年は「開業日」が期首)
翌年の元入金を計算した結果がマイナスになることもあります。マイナスになる原因は、事業が不調であるか、生活による支出が大きい場合などがあります。
仕訳例 – 開業時に事業資金を振り込んだ場合
事業用の口座を用意して、そこに開業資金を振り込んだときは、下記のように仕訳をしましょう。ちなみに、このとき「元入金」の代わりに「事業主借」の勘定科目を使っても構いません。
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年4月1日 | 普通預金 2,000,000 | 元入金 2,000,000 | 開業資金 |
2年目以降の元入金については、前述した計算式にしたがって金額を算出します。ただ、会計ソフトを使っていれば、大抵この計算は自動で行われるので、仕訳例の説明は省略します。
まとめ
個人事業においては、事業のお金と事業主個人のお金が混在しがちです。ですから、事業とプライベートのお金の流れを記録するために、事業主貸・事業主借の科目を利用します。先述のとおり、これらは個人事業に特有の科目です。
各科目の使用例
事業主貸 | 事業用のお金を、プライベートな目的のために使ったとき |
---|---|
事業主借 | プライベートのお金を、事業のために使ったとき |
元入金 | 新規開業時と、毎年の決算時 |
「元入金」の科目は、日々の帳簿づけでは使いません。開業時に開業資金を記録するときと、年をまたぐタイミングでのみ使われます。
会計処理の流れ
- 1年を通して、公私をまたぐお金のやりとりを事業主貸・事業主借で記帳する
- 決算時に事業主貸や事業主借を精算して、翌年期首の元入金を算出する
- この精算によって、期首には事業主貸と事業主借がゼロにリセットされる
元入金の計算式
期首の元入金 + 所得 + 事業主借 - 事業主貸 = 翌期首の元入金 |
「期首」は原則1月1日(新規開業した年だけは「開業日」が期首)
毎年、年末に上記の計算をして、事業主借や事業主貸の金額を精算し、翌期首の元入金へと集約します。会計ソフトを使っている場合、大抵のソフトではこの精算が自動で行われます。