本記事では、個人事業主が納める主な税金について、複式簿記の記帳例をまとめています。経費計上できる税金は「租税公課」の科目で記帳します。経費にできない税金を記帳する場合は「事業主貸」の科目を用います。
記帳方法は3つに分けられる
納めた税金の記帳方法は、その税金が経費に計上できるかどうかで異なります。この記事では、大きく以下の3つの場合に分けて説明しています。
全額を経費にできる | 事業用の割合だけ 経費にできる |
全く経費にできない | |
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税金の例 |
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使用する勘定科目 | 租税公課 | 租税公課 & 事業主貸 | 事業主貸 (事業資金で納めた場合) |
租税公課 | 経費に計上できる税金を記帳するときに使う勘定科目 |
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事業主貸 | 事業用資金を私的な目的のために支出したときに使う勘定科目 |
【補足】消費税について
消費税の「免税事業者」に該当する人は、そもそも消費税を納付しないので、その仕訳方法についても気にしなくてOKです。納付した消費税を経費に計上するのは、税込経理方式(税込価格で帳簿づけをすること)を選択している「課税事業者」だけです。
仕訳例① 全額を経費にできる場合
代表的な税金
- 個人事業税
- 消費税(税込経理方式を採用している課税事業者のみ)
これらの税金を記帳するときは、「租税公課」の勘定科目を使いましょう。たとえば、個人事業税を納付した際は下記のように記帳します。
例:個人事業税を現金で納付したとき
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年8月23日 | 租税公課 50,000 | 現金 50,000 | 個人事業税 納付 |
なお、固定資産税や自動車税も、全額を経費にできる場合があります。例えば「100%事業のために使っているもの」にかかる固定資産税などは、その全額を経費にできます。
仕訳例② 事業に関する割合だけ経費にできる場合
代表的な税金
- 固定資産税
- 自動車税
「事業でもプライベートでも使用しているもの」にかかる税金は「家事按分」をして、事業用の部分だけを経費計上します。たとえば、公私の両方で使っている車の自動車税を、事業用の口座から納めた場合は、下記のように仕訳をします。
例:自動車税を事業用口座から納付したとき(事業用比率は40%とする)
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年6月1日 | 租税公課 20,000 | 普通預金 50,000 | 自動車税 |
事業主貸 30,000 | 家事使用分 |
納めた税金について家事按分をする際は、以下のように勘定科目を使い分けましょう。
- 事業に関する割合………「租税公課」を使って記帳 (経費に計上できる部分)
- プライベートの割合……「事業主貸」を使って記帳 (経費に計上できない部分)
なお、もちろん「100%事業で使っているもの」にかかる固定資産税や自動車税は、全額を経費に計上できます。逆に「全く事業で使っていないもの」にかかる固定資産税などは、一切経費に計上できません。
仕訳例③ 経費に計上できない場合
代表的な税金
- 所得税
- 住民税
これらの税金は基本的に記帳不要です。ただ、事業用資金から納付した場合は「事業主貸」を使って記帳しましょう。たとえば、所得税を事業用の口座から納付した際は、下記のように仕訳をします。
例:所得税を事業用の口座から納付したとき
日付 | 借方 | 貸方 | 摘要 |
---|---|---|---|
20XX年4月20日 | 事業主貸 90,000 | 普通預金 90,000 | 所得税 納付 |
所得税や住民税は経費に計上できないので、本来は記帳不要です。しかし、事業用口座などから納付した場合は、残高の減少理由を説明するために記帳が必要になります。そこで、「これは私的な支出ですよ」と示すために、事業主貸の勘定科目を使うのです。
「事業主貸」の使い方について詳しく
記帳をするタイミング
納付した税金を記帳する際は、「納付額が発生したとき」と「実際に納付したとき」の2回に分けて記帳をするのが原則です。しかし、本記事で示した「実際に納付したとき」に記帳する簡易的な方法でも、基本的には問題ありません。
原則的な方法 | 「納付額が発生した時」と「実際に納付した時」に記帳する(発生主義) 「納付額が発生した時」とは納付通知書が届いた時などを指す |
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簡易的な方法 | 「実際に納付した時」に1度だけ記帳する(現金主義) ただし、納付が遅れて年をまたぐ場合などは原則的な処理が必要 |
原則的な処理が必要になるのは、たとえば個人事業税の納付が遅れ、年をまたいでしまった場合などです。簡単に言うと、納付した金額を「納付額が発生した年」の経費に計上するために、原則的な方法による記帳が必要になります。
ただし、分割納付で年をまたぐ場合については、簡易的な処理が認められています。たとえば、固定資産税の分割納付では、年をまたいでから4回目の納付を行いますが、わざわざ原則的な方法で記帳をする必要はありません。
まとめ – 重要ポイント
納めた税金を記帳するときの重要ポイント
- 個人事業税など、全額を経費にできる税金は「租税公課」の科目で記帳
- 事業&プライベートで兼用しているものにかかる税金は「家事按分」をして記帳
- 家事按分をする場合、勘定科目は「租税公課」と「事業主貸」を用いる
- 経費にできない税金を記帳する場合は「事業主貸」の科目を用いる
以下のような支出でも、事業に必要なものは経費に計上できます。
- 印紙税、登録免許税、不動産所得税など
- 商工会議所、協同組合、同業者組合などの会費や組合費
ちなみに、事業主の国民年金や国民健康保険に関する保険料は、経費に計上できません。これらの保険料を事業用口座から払った場合などは「事業主貸」を使って記帳しましょう。