ここでいう社会保険とは「厚生年金」と「健康保険」の2つを合わせた総称で、従業員数が5人以上になる事業所は、基本的に従業員全員が強制加入となります。社会保険に加入すると、従業員の保険料の半分を事業主が負担します。
なお、個人事業主と専従者(家族従業員)は社会保険に加入することができません。「従業員数」は、事業主と専従者を除いてカウントします。
社会保険が強制加入になる条件
個人事業の場合、基本的には「厚生年金」と「健康保険(健保)」に加入する義務がありません。しかし、従業員数が5人以上になったら、事業所単位での加入が必要になります。このとき、事業主と専従者(家族従業員)は「従業員数」には含めません。
従業員が4人以下の場合や、下記の業種にあてはまる事業所の場合、社会保険への加入は強制ではありません。ただし従業員の半数以上の同意を得れば、任意で加入することができます。このような「任意加入」については、記事の後半で説明します。
従業員が5人以上でも社会保険への加入が必須でない業種の例
- 農林水産業
- 飲食業
- 理容、美容業
- 旅館などの宿泊所
- 弁護士、税理士
個人事業で社会保険に加入する流れ
社会保険の加入条件を満たした事業所は、まず「新規適用届」を提出し、事業所として社会保険に加入します。加えて、従業員全員分の「被保険者資格取得届」と、家族などがいる従業員の分だけ「健康保険被扶養者届」を提出すれば、加入手続きは完了です。
上の図は、事業所として初めて社会保険に加入するときの流れです。加入した後、新たに従業員を雇う際には、提出しなくてよい書類もあります。
強制加入の際に提出する書類
従業員の数が5人以上になったら、一部の業種を除いて、事業所単位で社会保険に「強制加入」となります。強制加入の際に提出が必要な書類は、以下のとおりです。
提出期限 | 提出先 | |
---|---|---|
新規適用届 | 従業員が5人以上になった日から5日以内 | 年金事務所 |
被保険者資格者取得届 | 事業所の加入から5日以内 従業員の雇用から5日以内 |
|
健康保険被扶養者届 |
新規適用届
従業員数が5人以上になり、事業所が厚生年金と健保の加入条件を満たしたら「新規適用届」を提出します。提出するのは、事業所として社会保険に加入する時の一度のみで、新たに従業員を雇う際は不要です。
被保険者資格取得届
事業所が社会保険の適用を受けたら、加入条件を満たす従業員全員分の「被保険者資格取得届」を提出します。この手続きが済むと、保険証などを受け取ることができます。新たに従業員を雇う際は、そのたびに提出が必要です。
健康保険被扶養者届
健保に加入する従業員の家族などに「被扶養者」がいる場合は「健康保険被扶養者届」を提出して、そのことを届け出ます。これによって被扶養者の保険料を免除することができます。被扶養者のいる従業員を雇う際などは、そのたびに提出が必要です。
「扶養」とは収入の少ない親族を養うことを指し、下記のような条件に当てはまる場合のみ「扶養者」(健保に加入する従業員)に扶養される「被扶養者」として認められます。
収入の少ない配偶者や子供などが該当するケースが多いです。
健保の被扶養者に該当する主な条件
- 年間収入が130万円未満
- 扶養者と同居の場合は、収入が扶養者の半分未満
- 扶養者と別居の場合は、収入が扶養者からの仕送り額未満
- 3親等内の生計をともにする親族
任意加入の際に提出する書類
従業員数が4人以下の場合などでも、従業員の半数以上が同意すれば、事業所として社会保険に任意加入することが可能です。また、任意加入の場合は、厚生年金と健保のどちらか片方のみに加入することもできます。
社会保険に加入することで、事業所は従業員の保険料を一部負担することになります。とはいえ、従業員の立場からすれば将来的なメリットにつながる制度のため、半数以上の希望がある場合は任意加入を検討しましょう。
提出期限 | 提出先 | |
---|---|---|
任意適用同意書 | 同意が得られ次第、すみやかに | 年金事務所 |
任意適用申請書 |
任意加入の場合は「任意適用同意書」と「任意適用申請書」をあわせて提出することで、事業所として保険の適用を受けます。加えて「被保険者資格取得届」や「健康保険被扶養者届」も提出しましょう。その後、認可が降りしだい雇用保険や健保に加入できます。
社会保険の保険料について
社会保険の保険料は、月の給与を一定の基準にあてはめた「標準報酬」という値に料率をかけて算出します。その金額を、従業員と事業主で半分ずつ負担する形になります。以下のようなイメージで、事業主はいちど全額を納付し、従業員の給与から折半額を天引きします。
保険料の計算方法
「標準報酬」の基準とそれに伴う保険料の変化は、以下のような表で確認することができます。(表は2021年4月分から適用、東京都の場合)
令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)
2021年4月現在、厚生年金は18.3%、健保は40歳未満で9.84%、40~64歳で11.64%(東京都の場合)という料率が基本となっています。ただし、社会保険料の料率に関しては、改正によって変化することがあります。また、健保の料率は地域によっても異なります。
社会保険料の計算例 – 2021年4月 東京都の場合
東京都で働く25歳の従業員、月給225,000円の場合、標準報酬月額は220,000円となり、2021年4月分(5月納付分)の保険料と折半額は以下のように計算します。
・厚生年金保険料
標準報酬月額 220,000円 × 料率 18.3% = 40,260円
保険料全額 40,260円 ÷ 2 = 折半額 20,130円
・健康保険料
標準報酬月額 220,000円 × 料率 9.84% = 21,648円
保険料全額 21,648円 ÷ 2 = 折半額10,824円
上記のように、従業員と事業主は保険料を折半し、この場合では合計30,954円ずつ負担することになります。
まとめ – 社会保険加入の際に提出する書類
強制加入の場合
従業員数が5人以上になった場合は、一部の業種を除いて、社会保険への加入が義務となります。その際に提出する書類は以下の通りです。
提出期限 | 提出先 | |
---|---|---|
新規適用届 | 従業員が5人以上になった日から5日以内 | 年金事務所 |
被保険者資格者取得届 | 事業所の加入から5日以内 従業員の雇用から5日以内 |
|
健康保険被扶養者届 |
「新規適用届」の提出は、事務所として社会保険に加入する際の一度のみ。「被保険者資格取得届」と「健康保険被扶養者届」は、その後も新しく従業員を雇う際は、そのたびに提出が必要です。
任意加入の場合
従業員数が4人以下の事業所や、強制加入の対象外となる事業所でも、全従業員の半分以上の同意があれば、社会保険に任意加入することができます。また、任意加入の場合は、厚生年金と健保のどちらか片方のみに加入することも可能です。
提出期限 | 提出先 | |
---|---|---|
任意適用同意書 | 同意が得られ次第、すみやかに | 年金事務所 |
任意適用申請書 |
上記に加えて、任意加入の場合も、全従業員分の「被保険者資格取得届」や、必要に応じて「健康保険被扶養者届」も提出します。また、この2つは新しく従業員を雇うたびに提出が必要です。
社会保険の任意適用に関しては、事業主の立場からするとメリットもデメリットもあります。従業員と相談して、慎重に判断しましょう。